サイバーホビー(緑箱) #6767 1/35 九五式軽戦車「ハ号」(初期型)

Figure is available Japanese version only.

【実車について】
九五式軽戦車は、1935年(昭和10年)に制式化され、1943年(昭和18年)までに2,378両が生産された軽戦車です。武装は37mm砲1門と機銃2丁で、装甲厚は最大で12mm、速力は40km、重量6.7トンでした。その生産数は九七式中戦車よりも多く、貧弱な港湾設備しかない島にも荷下ろし出来たことから、日本の戦域の至る所に派遣されました。開発当時のスペックは列強と比べてもさほど見劣りするものではなく、高い信頼性と機動力で、緒戦では活躍しました。米英との戦いでは、苦戦を強いられましたが、その姿は日本独特の美意識に沿って設計され、なんとも味のある形をしています。

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日本戦車の場合、どうしても市場が殆ど日本だけになってしまうため、これまでハ号の1/35キットはファインモールドのものしかありませんでした。もう20年以上前の古いキットであり、しかもファインモールドは創業したばかりで高価なスライド金型などは使えませんでした。また、実車取材を気軽に行える時代では無く、おそらく公式図面を基に設計されていると思われます。20年の技術や環境の変化を無視してドラゴンのキットと比較するのは、長年市場で頑張ってくれた名キットに失礼と言うものでしょう。

今回のドラゴンのキットは、アバディーンやパラオに残る実車を綿密に実測して設計されました。当時の工業水準では、メーカーの図面通りに製作してみると現場で不具合が見つかることも少なくなく、ハ号でも実際に製作されたものと公式図面は異なる、と言うのが最近の研究の示すところだそうです。このため、これまで雑誌などで公開されてきた(公式図面を基に作図されたと思われる)図面とは異なる印象に仕上がっています。一方、実車写真を多く見てこられた方には「確かにこれがハ号だよ」と言う印象を持たれるキットになっているのでは無いでしょうか。

キットの設計をされた岡田氏はリサーチをグランドパワー2012年12月号(以下GP223)と2013年1月号(GP224)にまとめています。これには、今まで一部の研究者以外には知られていなかった、幾つもの事実が記されています。

これまでは左右対称と思われていた車体スポンソン(丸く張り出した部分)の形状は、実車を採寸した結果、ごく僅かですが左右で大きさが異なることが判明しました。これはキットを漠然とみていても解らない程度で、もちろん私などは指摘されるまで気がつきませんでした。公式図面においては左右対称ですので、どうやら実際に製作する段階で変更があったようです。GP223に1/35図面が載っていますので、従来の図面と比較していただければ良いと思います。この他、前部フェンダー後端、左後部フェンダー前端の長さも公式図面とは異なりますが、記録写真と比べて頂ければドラゴンのキットの正確さが解って頂けるでしょう。

ハ号の誘導輪は鏡面対象になるよう製作されているため、左右で異なる部品が使用されています(GP224 P.111) 。キットはこの部分も実車通り再現しています。

転輪のモールドはもの凄いもので、タイヤ会社の名前が読めるほどです。

転輪の内側には、Uの字をしたスペーサーが付いています(GP224 P.106)。キットはこれを再現するため、スライド金型を使用しています(完成すると殆ど見えません)。

現存する実車では経年変化で失われているようですが、前部フェンダー下部には軟質素材で作られた衝立のようなものがあります(GP223 P.109-P.111)。
その気で見ると、有名な記録写真にも写っているのですが、図面やイラストの多くでは描かれていません。
キットではフェンダー長の短い初期型を再現しています。

矢印の部分の肉が削がれた様に成型されていますが、これは成型不良では無く、機銃を左上に振った場合、照準口が隠れてしまうのを防ぐため、実物でもこのように工作されています(GP224 P.138)。キューポラは全周には跳弾ベルトが装着されていない初期型です。

ハ号は、参考にしたルノーFTに倣い、防循内で主砲を左右に旋回することができる機構を取り入れていました。手元の資料によると角度は左右に10度ずつです。キットではこれを初めて再現しました。砲の上下・左右の動きは車長兼砲手が肩に当てたパッドを使って行います。

この構造は既に八九式中戦車でも採用されており、新砲塔チハに至るまで受け継がれています。これは当時の砲塔旋回ギアの精度が今ひとつ低く、微調整を行う場合、このような機構があった方が便利だったと言う説があります。一式中戦車以降は廃止になりますが、流石にこの頃になるとギアの精度が高くなり、また、47mm砲は人間が肩で動かすのは重く、新砲塔チハではあまり使われていなかったと言う事情があるようです。なお、キットでは「砲を真正面で固定したい」と言う方のため、一体化されたパーツ(C11+C12)も用意されています。

キットはドラゴンが最新金型技術を投入しただけあって、凄まじいシャープさと組立精度です。可能な限りスライド金型を使ってパーツの一体化が進められており、箱を開けたときの部品の少なさには驚きを覚えます。説明書の誤りも特になく、組立もスラスラと進み、手の早い方なら2日掛からないでしょう。エッチングパーツはオプションになっている部分が多く、多少時間を掛けても精密感を楽しみたい方向けになっています。覗視孔やナンバープレートにもオプションとしてエッチングが用意されていますが、見本ではプラで十分と判断して使用していません。

ハ号は主砲に同軸機銃を持たないため、目標によってはこのように砲塔機銃を前面に向けて戦ったと思われます。砲塔左側面の発煙筒は一部の部隊で装備しているもので、キットでもオプションパーツとなっています。キットの付属のデカールでは、マレーの第一戦車連隊「志20」がこれを取り付けています。取り付けない場合は、砲塔の取付基部モールドを忘れず削ります。車体前部ハッチの取っ手は、見本の状態がロック、90度回すとロック解除になります。

ハ号の前照灯は戦闘時の破損を避けるため、使わないときは180度回転させることが出来ました。見本では後ろ向きにした状態としてみました。基部前面に付いている円錐状のノブを開け閉めして向きを変えると思われます(GP224 P.119)。記録写真でも後ろ向きにしている例が多く見つかります。B31が前向き、B32が後ろ向き用のパーツです。

機関部は極薄に抜かれたルーバーとエッチング製のマフラーガードで非常にシャープに仕上がり、各ハッチは開閉選択出来ます。車体後部の斜度のある装甲板に付いている小ハッチなどは、組立の簡単なハンドルが一体化したパーツを選択することも可能です。こうした設計の気遣いもあり、ドラゴンのキットの中で屈指の組みやすさに仕上がっています。

ハ号は当初、九四式37mm砲を搭載していましたが、生産途中から少し威力が向上した九八式37mm砲を装備するようになりました。砲身形状は同じで、砲尾の形状の違いからしか判別出来ません。キットには両方の砲尾が入っています。C1+C2が九四式で、H6+H7が九八式です。変更時期など詳しくは、GP223で説明されています。
ハ号の砲塔は1人砲塔で、車長は砲手と装填手を兼ね、主砲と機銃の両方を操作しなくてはなりませんでした。砲の左側に立ったままで操作しますが、砲塔内の狭さはかなりのものだったらしく、戦闘時以外は機銃を取り外している写真も見ることが出来ます。見本では九四式にしてみました。

足回りの再現性は素晴らしいものです。誘導輪は、実物が一体成型では無く、外周リングが別部品で溶接されている点を再現しています。
ベルト履帯はモールドも良く、塗装や接着も通常のプラと同じく行えます。見本では好みで2コマ詰めました。

竹一郎氏原型のフィギュア(半身像)は素晴らしい出来です。フィギュアは日本国内向けだけの特典です。